第2部:古典ヨガの確立と仏教への影響
はじめに:ヨガが体系化される時代へ
前回ご紹介したヴェーダ時代を経て、ヨガはその思想と実践をさらに発展させ、やがて「古典ヨガ」と呼ばれる体系的な形に進化していきました。この時期、ヨガは哲学として整理されただけでなく、仏教の思想と相互に影響し合いながら、精神的な修行の一環として重要な役割を果たしていきます。本記事では、『ヨーガ・スートラ』という古典ヨガの基盤と仏教思想との関わりについて深く掘り下げます。
1. 古典ヨガの確立:『ヨーガ・スートラ』と八支則
『ヨーガ・スートラ』の誕生
ヨガの思想を理論的に体系化したのが、インドの哲学者パタンジャリによる『ヨーガ・スートラ』です。この重要なテキストは西暦4〜5世紀頃に編纂され、ヨガの実践を精神的な成長のプロセスとしてまとめ上げました。それ以前のヴェーダ時代やウパニシャッドで語られてきたヨガ思想を基盤に、新たな形で整理されたものです。
『ヨーガ・スートラ』の特徴
◯全4章、約195のスートラ(短い経文)で構成。
◯ヨガの目的(心の作用の停止)とその達成方法を明確に記述。
◯精神的な修練のプロセスを示し、個人が「三昧(サマーディ)」と呼ばれる究極の精神統一を得ることを目指しています。
八支則(アシュターンガ)
『ヨーガ・スートラ』の中でも特に注目されるのが、「八支則(アシュターンガ)」と呼ばれるヨガの8つの実践ステップです。これは心身の調和と精神統一を目指すためのガイドラインであり、現代でもヨガ哲学の基本となっています。
1.ヤマ(禁戒):非暴力や正直など、社会的な行動規範。
2.ニヤマ(勧戒):清潔さや自己鍛錬など、個人の内面的な規律。
3.アーサナ(座法):快適で安定した姿勢を取る練習。現代ヨガのポーズの原型。
4.プラーナーヤーマ(呼吸法):生命エネルギー(プラーナ)の調整技術。
5.プラティヤハーラ(感覚の制御):外部刺激から意識を切り離すこと。
6.ダーラナ(集中):特定の対象に意識を集中させる練習。
7.ディヤーナ(瞑想):深い瞑想状態を得るための実践。
8.サマーディ(三昧):宇宙と自己が一体化した完全な至福の境地。
これらの実践は、「精神的な浄化」と「最終的な悟り」への道を示すものであり、仏教や他のインド哲学とも深い共通点を持っています。
2. 仏教の誕生とヨガ思想への影響
仏教の誕生
古典ヨガが体系化されるよりも早い紀元前5〜4世紀、インドではゴータマ・シッダールタ(釈迦)によって仏教が誕生しました。
仏教の八正道とヨガの八支則
仏教の八正道(正しい見解、正しい行為、正しい努力など)は、ヨガの八支則と多くの共通点を持ちます。特に以下の点で類似が見られます。
◯瞑想(ディヤーナ):心を整える実践として、仏教とヨガの双方で重要視される。
◯戒律(ヤマ):仏教の「戒」とヨガの「ヤマ」は倫理的な行動規範として重なる。
◯集中(ダーラナ):仏教の「正念」「正定」とヨガの集中法が一致する。
仏教における瞑想法とヨガ
仏教では瞑想を通じて「苦しみからの解脱」を目指しますが、この瞑想の技術には、ヴェーダ時代から伝わるヨガの影響が見られます。特に以下の2つの瞑想法がヨガと関連しています。
1.サマタ瞑想(集中瞑想):心を一点に集中させる方法。ヨガのダーラナと類似。
2.ヴィパッサナー瞑想(観察瞑想):物事をありのまま観察する方法。
仏教はヨガの瞑想技術を基にしつつ、それを智慧(パーリ語:パニャー)の獲得という目的に適合させていきました。
3. 仏教とヨガの相互作用
仏教が発展するにつれて、ヨガの実践は仏教徒の修行にも取り入れられました。一方で、仏教の思想や実践もヨガの哲学に影響を与えています。そして、両者の目指すゴールは異なるものの、「精神的解放」という大枠では共通しています。
仏教僧とヨガの修行
仏教僧たちは、瞑想の前段階としてヨガのアーサナ(座法)やプラーナーヤーマ(呼吸法)を採用することもありました。これにより、瞑想の効果が高まり、より深い精神統一が可能になったと言われています。
おわりに:仏教とヨガの深い結びつき
古典ヨガは、ヨーガ・スートラの体系化を通じて、精神と身体の統合を目指す哲学として確立されました。同時に、仏教の誕生によって、その思想や技法に新たな視点が加えられます。ヨガと仏教は独自の道を歩みながらも、お互いに影響を与え合い、精神的探求の方法として発展していきました。
次回の第3部では、中世ヨガの発展と禅宗との関連について詳しく解説します。お楽しみに!
第2部:古典ヨガの確立と仏教への影響
第3部:中世ヨガの発展 〜禅宗との共鳴〜
第4部:近代ヨガと現代社会への広がり
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